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『過緊張』
藤田 毅
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2006年 7月号
発行こぶし編集部
第215号
『過緊張』 藤田 毅
■ワールドカップ
世間はワールドカップ一色である。この文章が皆さんの目に留まる時はどの国が残っているだろうか。日本が一次リーグを戦っているときは本当に日本中がサッカーを見ているのではないかというくらいの勢いだった。特に初戦のオーストラリア戦の時は、タクシー運転手さんが「試合時間中に歩行者を見なかった」という程、みんながテレビの前で応援していた。敗退してからは日本のワールドカップ熱はおさまったようにも見えるが、これを書いている現在は8強が出そろった所で、いよいよこれからが面白いという状況である。(ちなみに我らがコンサドーレも連勝中なので応援よろしく(^_^))
■過緊張
世界の一流プレーヤーの一流の技を見ているとため息が漏れるばかりだが、彼らにもかなりのプレッシャーがあるのだろうなと思う。国の期待を背負っての出場だから当然だろうし、ところによっては今後の人生を左右してしまうケースもあるだろう。お隣の韓国だって兵役が軽減されるらしいし、それぞれに必死であろう。
そういう状況では、当然の事ながら緊張を伴うプレーも多い。その緊張をはねのけてこそ一流という人もいるだろうが、そう簡単に緊張を克服することはできない。シュートを決められなかった柳沢しかり、PKを決められなかったウクライナのシェフチェンコしかり。そういえば、ジーコだってワールドカップでPKをはずしている。それを批判するのは簡単だが、おそらく異様なプレッシャーだろうし、それを手なずけるのは容易なことではないはずだ。
彼らのような世界中に注目されている状況ではなくても、過緊張を私たちが経験する事は多い。大勢の前で発言する、試験を受ける、面接を受ける、目上の人と話す、衆人環視の中で何かをする、などなど。緊張しないでいられれば幸せと思う方も多いかもしれないが、社会はそれを許してはくれない。
■なぜ緊張するか
ではなぜ緊張するのだろうか。そもそも緊張は悪なのだろうか。
緊張は元々生物の存続に必要な機能として存在している。動物は危険が迫ると緊張する。交感神経が活発に動き出すことで、血圧が上がり、心拍数も上がり、筋肉は今にも動きだそうと準備万端となり、いつでも逃げ出すことができるのである。また敵と相対峙した場合も同様である。いつ相手が襲ってきても瞬時に対応できるように体中の機能を活性化する。それが緊張である。だから適度な緊張は非常に大切な働きを担っている。
ところが、何事も程々が大切で、この緊張も度を過ぎてしまうと体は思うように働かなくなったり、働きすぎたり、とにかく自分の意志とは無関係に不都合な動きをしてしまう。汗をいっぱいかいたり、手が震えたり、シュートやPKをはずすのである。
これらの過緊張も私たちの身の回りにはいっぱいあって、誰もが納得するような緊張の場面では、それらの過緊張は多くの人に容認される。「仕方ないよ」とか「気にしないで」といって慰めてもらえる。しかし、多くの人が緊張はしても過緊張にならない場面で、通常予想されるよりも強く緊張するとどうなるか。悲しいかな、「肝っ玉が小さい」とか、「大げさな」とか、大抵は笑われたり、軽んじられたりしてしまう。ところが、この便りでも前にご紹介した通り、こういった過緊張が起きやすい病気が存在している。社会不安障害(SAD)である。
■社会不安障害
自分が注目をあびるような状況下で必要以上に緊張してしまう状態を社会不安障害というが、これは一般的には”病気”として認識しにくいかもしれない。個人の資質とか経験の差とか緊張に関連してくる要素が多いため、何でもかんでも病気に思えたり、逆に全部個人差に思えたりしてしまう。
この判断の一助としてLSAS-Jというテストがあるが、基本的には本人がどこまで苦しんでいるのかという視点が重要である。苦しみ抜いてきた状況が自分の弱さのせいだと思いこみ、ひたすら自己否定し続けている人がいるならば、それが病気であるという新しい認識は本当に助けとなるだろう。
これまで我々医師でも「もう少し強くならないとね」などと無責任な事を言っていた”過緊張”が、いくつかの薬物や認知行動療法などの精神療法の適応となるのである。その事実を知れば、どの医師も自分の安易な発言に、それこそ冷や汗を流し、緊張するに違いない。(私も・・)
近々、製薬会社の提供で社会不安障害の啓蒙コマーシャルがまた始まると聞いた。皆さんもどこかで目にするかもしれないが、健康な方にはそういった苦悩があることを知って欲しいし、自分もそうかもしれないと思う方には我慢しないで申し出て欲しいと思う。どんな苦悩でも救われる道があるなら、諦めないで欲しいと思うのだ。
■胃が痛い・・
緊張が続くと体に色々な異変が起きる。肩こりから頭痛が慢性化したり、Functional Dyspepsiaと呼ばれる原因不明の胃部不快感が起きたり、免疫機能が落ちて流行性感冒にかかりやすくなったりする。
とくに想像しやすいのは胃が痛いという状況だろう。最近、私も胃痛に悩まされるときがあるが、これは私の体が「今、負担がかかっていますよ」というサインを送ってくれているのである。痛みという刺激によって、その状況を回避させようとする防衛機能である。それを無視すれば体は回復するチャンスを失い、結果として病気になる訳だ。だから皆さんもこういったサインを無視してはいけない。折角教えてくれているのだから有り難く受け止め、言うことをきこうではないか。
ちなみに過緊張を和らげるためには、ストレッチ体操や腹式呼吸が良いと言われている。そういった対応を軽んじることなく、地道に続けることこそストレス対策にもなるというもの。(何だか自分に言っているみたい・・(笑))
■お知らせ
いよいよ7月。例年皆様にはご迷惑をおかけしているが、来月にはまたお盆休みをいただくことになっている。各医師の不在日とクリニック自体の休診日があるので、途中でお薬を切らしたりなさらないようご留意を。
さて、ワールドカップの優勝はどこになるだろうか。下馬評通りブラジルか、華麗なプレーのアルゼンチンか、開催国のドイツか、それとも・・。
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